「ごめんなさい」が言えない子|謝らせるより大切な、気持ちと関係の育て方
対象の目安: 2〜6歳ごろ

友だちのおもちゃを取ってしまった、弟を押してしまった。「ほら、ごめんなさいは?」と促すのに、うつむいて黙り込む。「早く言いなさい!」と声が大きくなり、あとで自己嫌悪——そんな場面は多くの家庭で繰り返されています。でも、謝れないのは「わがままだから」とは限りません。謝罪は思っている以上に高度な心の働きを必要とします。この記事では、謝ることを「言わせる」ゴールにせず、気持ちの理解と関係の修復を育てる関わり方を整理しました。発達には大きな個人差があり、ここで紹介するのは一般的な目安です。
なぜ「ごめんなさい」が言えないのか
大人にとっての謝罪はほとんど反射的なマナーですが、子どもにとっては、いくつもの段階を一度に踏む難しい行為です。謝るには少なくとも次のことが同時に必要です。
- 自分が何をしたかを覚えていて、言葉で思い出せる
- その行為と、相手が泣いているという結果を結びつけられる
- 相手の立場に立って気持ちを想像できる(視点取得)
- 「悪かった」という気持ちを、恥ずかしさを越えて口に出せる
つまり記憶・因果の理解・視点取得・感情のコントロール・言語表現がそろって初めて「心のこもったごめんなさい」になります。どれかが育ち途中なら、言えなくて当然です。言えない背景には次のようなものがあります。
- まだ相手の気持ちに気づいていない:悪いことをしたつもりがない
- 分かってはいるが、恥ずかしくて言えない:注目が集まるほど固まる
- 叱られるのが怖くて防御に入る:認めたらもっと怒られると感じている
- 言葉が追いつかない:気持ちはあるのに、その場で言語化できない
- 自分にも言い分がある:先に叩かれた、順番を守ってもらえなかった
「謝らない=反省していない」と受け取るほど、対応は厳しくなりがちです。まずは「難しいことに挑戦している最中」ととらえ直したいところです。
年齢別の目安(早見表)
謝罪の質は心の発達とともに変わります。下の表は大まかな目安で、個人差があります。
| 時期の目安 | できることの目安 | 大人の関わり方の重心 |
|---|---|---|
| 2歳ごろ | 自分の行為と相手の涙が結びつきにくい。まねで「ごめん」と言えることはある | 大人が代弁する。「痛かったね」を見せる |
| 3歳ごろ | 促されれば言えるが、形だけになりやすい。言い分も強く出る | 気持ちを聞く。言えたら形でも認める |
| 4歳ごろ | 相手の気持ちを少しずつ想像できる。関係を保つために謝ることもある | 何が起きたかを一緒に短く整理する |
| 5歳ごろ | 自分の責任は認められるが、罪悪感の自覚はまだ半々程度とされる | 「相手はどう思ったかな」と一緒に考える |
| 6歳ごろ | 責任の受け止めと罪悪感の自覚がそろいやすくなる | 修復の方法まで本人に考えさせる |
5〜6歳の違いには報告があります。ある調査では、6歳児はほぼ全員が謝罪の場面で責任の受け止めと罪悪感の認識を示した一方、5歳児では責任の受け止めは大多数に見られたものの、罪悪感の認識を示したのは約半数にとどまったとされています。
同じ研究では、5歳児でも相手のいやな気持ちを推測させることで、責任の受け止めと罪悪感の両方がそろう状態になったと示されています。大人が「されたほうはどう感じたか」に目を向けさせる関わりには意味がある、ということです。
また4〜6歳児を対象にした別の研究では、その場をおさめる「道具的な謝罪」と心からの「真の謝罪」の使い分けが相手との親しさによって見られるようになるのは6歳ごろからだったと報告されています。3〜4歳の「形だけのごめんなさい」は、自然な通過点だと言えます。
道具的謝罪と真の謝罪の使い分けが親密性によって変わるのは6歳児から、という知見は、中川美和・山崎晃「対人葛藤場面における幼児の謝罪行動と親密性の関連」(教育心理学研究52巻2号, 2004年)より
なお、他者が自分と違う思い込みを持ちうると理解する力(心の理論)は、標準的な誤信念課題の通過が4歳後半から5歳ごろとされます。相手の内面を推し量る土台自体が、この時期に育っている最中です。
標準誤信念課題の通過時期の目安(4歳後半〜5歳ごろ)は、脳科学辞典「心の理論」より
その場でやること:4ステップ
トラブルの直後は大人も焦ります。順番を決めておくと感情に流されにくくなります。
- 1
まず、されたほうをケアする
どちらが悪いかを裁く前に、痛かった子・泣いている子に寄り添います。手当てをする姿を、した側の子も見ています。相手を気づかう行動そのものがお手本になります。 - 2
気持ちを言葉にする
「〇〇ちゃん、びっくりして泣いちゃったね」と相手の気持ちを言葉にし、した側の「使いたかったんだよね」も拾います。責めるためでなく、双方の内面を見えるようにするための言語化です。 - 3
何が起きたかを短く確認する
「おもちゃを引っぱったら〇〇ちゃんが転んだね」と、事実だけを1〜2文で。長い説教や「なんでそんなことしたの!」という問い詰めは、防御に追い込むだけです。 - 4
謝る以外の修復も認める
言葉が出ない子には別の道を用意します。タオルを持ってくる、絵を描いて渡す、おもちゃを返す、そばに座る。行動で気持ちを表せたら「できたね」と認めます。言葉はあとからついてきます。
ヒント
どうしても言葉が出ないときは、大人が代弁して橋渡しをする方法もあります。「ごめんねって思ってるみたいです」と伝えたうえで、本人に「いまの気持ち、合ってた?」と確認する。無理に言わせず、気持ちが相手に届く経験を先に作るやり方です。
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避けたい対応
よかれと思ってやりがちですが、謝罪の意味を遠ざけやすい関わりがあります。
注意
大勢の前で「謝りなさい」と迫る、腕を押さえて頭を下げさせる、きょうだいや友だちと比べる、長時間の説教で追い込む。その場では謝ったように見えても、子どもに残るのは恥ずかしさと恐れであることが少なくありません。
特に、力ずくで頭を下げさせるのはしつけの範囲を超えかねません。児童福祉法等の改正で、親権者等がしつけに際して体罰を加えてはならないことが法定化され、2020年4月に施行されています。人の輪から少し離れて短く伝える、言い分を頭ごなしに否定しない。この2点を守るだけでも、子どもの受け止め方は変わります。
親権者等が児童のしつけに際して体罰を加えてはならないことが法定化され、令和2年4月に施行された点は、こども家庭庁「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」のページより
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大人が謝る姿を見せる
子どもは教えられた言葉より、見た行動から学びます。大人が失敗したときこそチャンスです。
- 「さっきは大きな声を出してごめんね。びっくりさせちゃったね」
- 「勘違いだった。ちゃんと聞かなくてごめん」
ポイントは、謝罪のあとに言い訳を続けないことです。「ごめんね、でもあなたが先に…」と続くと、謝罪が交渉の道具に見えてしまいます。まず区切って謝る。親が謝る姿は「謝っても関係は壊れない」という体験を子どもに渡します。
家庭でのふり返り
その場で解決しきれなくても、あとから静かに戻る時間を持てます。寝る前などが向いています。
- 責める前置きをしない:「今日のことなんだけど」と淡々と始める
- 相手の気持ちを想像する:「〇〇ちゃん、どんな気持ちだったと思う?」
- 次を考える:「今度使いたいときは、なんて言おうか」
- できたことを見つける:「途中でやめられたね」
謝れなかったことを蒸し返すより、「次にどうするか」に時間を使うほうが実りがあります。幼稚園教育要領では、人に対する信頼感や思いやりの気持ちは、葛藤やつまずきをも体験し、それらを乗り越えることにより次第に芽生えてくることに配慮するよう示されています。トラブルは、思いやりが育つ現場でもあるということです。
園でのトラブルと、きょうだいの場合
園から「今日、お友だちを叩いてしまいました」と伝えられると、家で追及したくなります。ただ時間が経つほど幼児は状況を再現しづらく、記憶も混ざります。家では「どんな気持ちだった?」と聞くところに絞り、事実関係の指導は園に委ねるほうが受け止めやすくなります。相手の保護者への謝罪は大人同士の問題として大人が行います。
きょうだい間は、どちらが悪いかの判定が難しく、判定するほど不公平感が残ります。「両方に言い分がある」前提で双方の話を聞き、片方だけに謝罪を求めない。上の子に「お兄ちゃんなんだから謝りなさい」と求めるのは、年齢による役割の押しつけになりやすい対応です。
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発達の心配があるときの相談先
謝れないこと単体は、多くの場合、発達の途中にある姿です。そのうえで次のようなときは、相談してよいサインです。
- 就学が近づいても、相手が痛がっている・泣いていることに気づきにくい
- 同じトラブルが園で繰り返され、集団生活に支障が出ている
- 感情が高ぶると切り替えに非常に時間がかかる
- ことばの発達や対人関係など、ほかにも気になることが重なっている
- 家庭でどう関わればよいか分からず、保護者の不安が強い
相談先としては、市区町村の「こども家庭センター」があります。母子保健と児童福祉の機能を一体的に担い、妊産婦・子育て家庭・こども本人からの相談に応じる窓口です。発達の特性に関する情報や地域の支援機関を探すときは、国立障害者リハビリテーションセンターの「発達障害情報・支援センター」も参考になります。園の担任やかかりつけの小児科も身近な入口です。
よくある質問
その場で謝らせないと、しつけになりませんか?
相手の保護者の前で謝らせないと、こちらが非常識に見えませんか?
うちの子だけ謝れず、周りの子はすぐ謝れているように見えます
「ごめんね」と言えば何でも許されると思っているようです
叱ったあと、子どもが「ぼくは悪い子だ」と落ち込みます
まとめ
「ごめんなさい」は言わせれば身につくものではなく、相手の気持ちに気づく力が育つのに合わせて、あとからついてくる言葉です。大人の役割は取り調べ役ではなく、気持ちを見えるようにして関係を結び直す手伝いをすることです。
- まず相手をケアし、両方の気持ちを言葉にする
- 事実確認は短く、説教は長引かせない
- 謝る以外の修復行動も認める
- 大人が失敗したときに、言い訳なしで謝ってみせる
- 心配が強いときは、こども家庭センターや園、小児科へ
今日うまくいかなくても、明日また場面はやってきます。焦らず、少しずつで大丈夫です。
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