子どもの感染性胃腸炎|冬の流行前に知りたい吐物処理と家庭内二次感染を防ぐコツ
対象の目安: 0〜6歳ごろ

夜中に「オエッ」という声で飛び起きて、布団もパジャマも大惨事——冬の感染性胃腸炎(嘔吐下痢症)は、多くの家庭が一度は通る道です。子どものケアだけでも大変なのに、数日後に親やきょうだいまで倒れてしまうと、生活が一気に立ち行かなくなります。感染性胃腸炎は初冬から増え始めるとされているので、流行期に入る前のいまこそ、道具と手順を確認しておく好機です。この記事では、原因ウイルスごとの違いと経過の目安、吐いた直後の動き方、そして家庭内の二次感染を防ぐ吐物・便の処理手順を、厚生労働省・こども家庭庁・国立健康危機管理研究機構の資料をもとに整理しました。症状の出方には個人差があり、月齢や持病によって注意点も変わります。判断に迷うときは自己判断せず、かかりつけの小児科に相談してください。
冬に増える感染性胃腸炎|原因ウイルスと流行の時期
感染性胃腸炎はひとつの病気の名前ではなく、ウイルスや細菌によって起こる胃腸炎の総称です。乳幼児の冬の流行で中心になるのはウイルス性で、なかでもノロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスがよく知られています。
国立健康危機管理研究機構の感染性胃腸炎の解説では、感染性胃腸炎は初冬から増加し始めて12月ごろに一度ピークができ、春にもうひとつなだらかな山ができること、罹患年齢は幼児および学童期が中心であることが示されています。冬はノロウイルスなど、春はロタウイルスが主な原因になりやすいという季節の違いもあります。
| ウイルス | 潜伏期間 | 症状の特徴 | 経過のめやす |
|---|---|---|---|
| ノロウイルス | 12〜48時間 | 嘔吐と下痢が主症状。脱水を合併することがある。乳幼児だけでなく学童・大人にも多く、再感染も稀ではない | 多くは1〜3日で治癒 |
| ロタウイルス | 1〜3日 | 嘔吐と下痢が主症状で、しばしば白色便になる。けいれんを伴い入院を要することがしばしばある | 多くは2〜7日で治癒 |
| 腸管アデノウイルス(40・41型) | 約3〜10日 | 発熱・嘔吐・下痢。ほかのウイルス性胃腸炎に比べて下痢の期間が長い | 下痢が長引きやすい |
メモ
症状だけでどのウイルスかを見分けるのは困難です。表は「だいたいこのくらいの経過をたどることが多い」という目安として読み、診断や治療方針は医療機関で確認してください。
吐いた直後の対応|あわてて飲ませない
もっとも失敗しやすいのが、吐いた直後です。「脱水が心配だから」とすぐに水やお茶を飲ませると、胃が落ち着いていないためにまた吐いてしまい、水分がかえって失われる悪循環に陥りがちです。
- 1
吐きやすい姿勢にする
寝かせる場合は、吐物が気管に入らないように体を横向きにします。うがいができる年齢ならうがいをさせ、まだできない子は口の中に残った吐物をやさしく取り除きます(吐き気を誘発しないよう慎重に)。 - 2
30〜60分は飲食を休ませる
こども家庭庁のガイドラインでは、嘔吐して30分から60分程度後に吐き気がなければ、様子を見ながら経口補水液などの水分を少量ずつ摂らせる、と示されています。まずは胃を休ませる時間をつくりましょう。 - 3
ごく少量から再開する
スプーン1杯やペットボトルのキャップ1杯程度から始め、5〜10分おきに繰り返します。一度に多く飲むと嘔吐を誘発しやすいので、量より回数です。 - 4
また吐いたら、また少し休む
吐いたら再び少し時間をおいて、また少量から。焦らず「休む・少量・繰り返す」のサイクルに戻ります。
飲ませるものの選び方や経口補水液の使い方は、下の記事で詳しく整理しています。
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食事はどう戻す?下痢のときに控えたいもの
水分が続けて摂れるようになったら、食事はおかゆやうどんなど消化のよいものを、量を少なめにして再開していきます。こども家庭庁のガイドラインでは、下痢のときに控えるべき食べ物として、脂っこい料理や糖分を多く含む料理・お菓子、香辛料の多い料理や食物繊維を多く含む料理が挙げられ、例としてジュース、乳製品(アイスクリーム、牛乳、ヨーグルト等)、肉、脂肪分の多い魚、芋、ごぼう、海藻、豆類、乾物、カステラが示されています。
下痢のときに控えるべき食べ物の一覧は、こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」別添3「下痢の時の対応」によります。
注意
市販の下痢止めを自己判断で使うのは避けてください。厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aでは、止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましい、とされています。使う薬の可否は必ず医師・薬剤師に確認しましょう。
なお、ウイルス性胃腸炎に効く抗ウイルス剤は現時点でなく、治療は水分補給や補液などの対症療法が中心です。だからこそ、家庭でできる水分の与え方と二次感染の予防が大きな意味を持ちます。
吐物・便の処理手順|ここで家庭内感染が決まる
ノロウイルスは感染力が強く、こども家庭庁のガイドラインでは、患者の吐物や糞便には1グラムあたり100万〜10億個ものウイルスが含まれるとされ、100個以下という少量でも人に感染し発病するとされています。処理が不十分だと、乾燥した吐物がエアロゾル化して空気感染を起こすこともあります。逆に言えば、最初の処理をていねいにやるかどうかが、家族が次々に倒れるかどうかの分かれ目です。
- 1
装備を着けて、人を遠ざける
使い捨ての手袋・マスク・エプロン(ゴミ袋を切って代用しても可)を着けます。ほかの子どもやきょうだいは別の部屋へ移動させ、窓を開けて換気を始めます。 - 2
外側から内側へ静かに拭き取る
ペーパータオルや使い捨ての布で、汚れの外側から内側に向かって静かに拭き取ります。こすったり、広い範囲を一気に拭いたりすると、汚染を広げてしまいます。市販の凝固剤を使う方法もあります。 - 3
0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで消毒する
こども家庭庁のガイドラインでは、嘔吐物や排泄物が付着した箇所の消毒は0.1%(1,000ppm)とされています。拭き取った後の床や物は、この濃度に希釈した次亜塩素酸ナトリウム液で浸すように拭きます。ペーパータオルを広げてかぶせ、しばらく置いてから拭き取る方法もやりやすいです。 - 4
時間をおいてから水拭きする
消毒液で拭いた後は水拭きをします(厚生労働省も、床を拭き取った後に水拭きをすると案内しています)。東京都感染症情報センターは、金属部分に使用した場合は10分程度たったら水拭きすると示しています。フローリングや家具も変色が心配なときは、同じように時間をおいてから水拭きすると安心です。 - 5
使った物は密閉して捨てる
手袋・マスク・エプロン・ペーパータオルはビニール袋に密閉して廃棄します。袋の中に廃棄物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい、と厚生労働省は示しています。 - 6
最後に手洗いと着替え
処理後は液体石けんを使って流水で30秒以上手を洗います。処理中に着ていた服が汚れた可能性があれば、着替えましょう。
消毒液の濃度は「0.1%」と「0.02%」を使い分ける
こども家庭庁のガイドラインには、次亜塩素酸ナトリウムの用途別の濃度と希釈方法が整理されています。家庭にある塩素系漂白剤(製品濃度が約6%のもの)を薄めて作れます。
| 用途 | 濃度 | 希釈のめやす(製品濃度約6%の場合) |
|---|---|---|
| 吐物や排泄物が付着した床・物、汚れた衣類の浸け置き | 0.1%(1,000ppm) | 水1Lに対して約20mL(500mLペットボトルのキャップ2杯弱) |
| 衣類・食器等の浸け置き、トイレの便座、ドアノブ、手すり、床など | 0.02%(200ppm) | 水1Lに対して約4mL(500mLペットボトルのキャップ0.5杯弱) |
注意
希釈液は毎日作りかえます。酸性の洗剤(トイレ用洗剤等)と混ぜると有毒な塩素ガスが発生するため絶対に混ぜないこと、噴霧はしないこと、金属腐食性と脱色(漂白)作用があること、誤飲を防ぐため子どもの手の届かない場所に置くことに注意してください。作った液はペットボトルに入れて保管せず、やむを得ず入れる場合は中身がわかるよう明記しましょう。
アルコールが頼りにならない理由
ふだんの感染対策で活躍するアルコール消毒は、この場面では主役になりません。ノロウイルスやロタウイルスはエンベロープ(脂質の膜)を持たないため、アルコールの効きが悪いのです。こども家庭庁のガイドラインでは、アルコール類の「消毒薬が効きにくい病原体」としてノロウイルス・ロタウイルス等が挙げられ、吐物や排泄物、血液を拭き取る場合等については消毒用エタノール等を用いて消毒を行うことは適当でなく、塩素系消毒薬を用いる、と明記されています。
洗濯・入浴・おむつ交換・手洗いの注意
汚れた衣類やシーツも、扱い方しだいで感染源になります。
流行期にやっておきたいこと
- 汚れた衣類は汚物が飛び散らないよう処理してから、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いする(しぶきを吸い込まない)
- 下洗いした衣類は85度・1分間以上の熱水洗濯が適している。難しい場合は次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が有効
- 下洗いをした場所(浴室や洗面所)も、後から消毒してから洗剤で掃除する
- 布団などすぐ洗えない物は、よく乾燥させてスチームアイロンや布団乾燥機を使うと効果的
- おむつ交換は決められた場所で行い、処理者は必ず手袋をする。汚れ物はビニール袋に入れて処理する
- 症状があるうちは湯船の共用を控え、シャワーで済ませて最後に入る。タオルは絶対に共用しない
手洗いは、流行期のもっとも基本的で確実な対策です。こども家庭庁のガイドラインでは、液体石けんを用いて流水で30秒以上、指先やつめの間まで念入りに洗うことが示されており、タオルの共用は絶対にしないこと、感染性胃腸炎が発生している期間中はペーパータオルの使用が推奨されることも書かれています。家庭でも流行期だけはペーパータオルに切り替える、と決めておくと迷いません。
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治ってからも手洗いを続ける理由
元気になったからもう安心、とはいきません。厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aでは、下痢等の症状がなくなっても通常は1週間程度、長いときには1か月程度ウイルスの排泄が続くとされています。こども家庭庁のガイドラインも、登園を再開した後もウイルスは便中に3週間以上排出されることがあるため、排便後やおむつ交換後の手洗いを徹底する、としています。
つまり、症状が消えてからの1〜2週間こそ、おむつ替えとトイレ後の手洗いが効いてきます。ここを乗り切れば、家庭内での連鎖はぐっと減らせます。
ロタウイルスは予防接種で重症化を防げる
ロタウイルスは、5歳までの間にほぼ全ての子どもが感染するとされ、脱水がひどくなったりけいれんがみられたりして入院を要することがしばしばあり、稀に脳症を合併することもあると、こども家庭庁のガイドラインに記載されています。患者数については、定期接種が始まる前の推計として、日本では年間約80万人、そのうち2〜8万人が入院しているとガイドラインに示されています(2018年改訂版の記載で、定期接種化後の現在の実勢とは異なる可能性があります)。
このロタウイルスには、日本では乳児に対する定期予防接種として経口生ワクチンがあります。東京都感染症情報センターによると、ロタウイルスワクチンは2020年10月より定期接種となりました。厚生労働省は、出生6週0日後から接種を受けることができるとしています。ロタリックス(1価)は2回接種で出生24週0日後まで、ロタテック(5価)は3回接種で出生32週0日後まで、初回接種の標準的接種期間は生後2か月から出生14週6日後までとされています。
メモ
接種可能な期間が短いワクチンなので、生後2か月の初回の予防接種でほかのワクチンと一緒に始めるのが一般的です。接種を受けてから約1〜2週間の間は腸重積症のリスクが通常より高まるとする研究報告もあり、「突然はげしく泣く」「嘔吐する」「血便がでる」などの症状がみられた場合は速やかに医療機関を受診するよう厚生労働省は案内しています。
なお、ノロウイルスについては現在使用可能なワクチンはありません。手洗いと吐物処理が最大の武器になります。
受診・救急を考えるサイン
多くは数日で回復に向かいますが、乳幼児は脱水が進みやすく、まれに重い合併症もあります。こども家庭庁のガイドラインが「至急受診が必要と考えられる場合」として挙げている内容を中心に整理します。
注意
次のような様子があるときは、早めに医療機関を受診してください。嘔吐の回数が多く顔色が悪い/元気がなくぐったりしている/血液やコーヒーのかすのような物を吐いた/嘔吐のほかに複数回の下痢、血液の混じった便、発熱、腹痛などの症状がみられる/水分が摂れない/唇や舌が乾いている/尿が半日以上出ない、量が少なく色が濃い/目が落ちくぼんで見える/皮膚の張りがない。また、頭を打った後に嘔吐したり意識がぼんやりしたりしているときは、横向きに寝かせて救急車を要請し、その場から動かさないこととされています。夜間や休日で迷うときは、小児救急電話相談#8000のほか、厚生労働省研究班・日本小児科学会監修の「こどもの救急(ONLINE-QQ)」も判断の目安として利用できます(生後1か月〜6歳が対象)。
受診・救急のサインは、こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」別添3「嘔吐の時の対応」に示された「至急受診が必要と考えられる場合」と脱水症状の観察ポイントをもとにまとめました。
受診するときは、便の状態(量・回数・色・におい・血液や粘液の混入)を伝えられるようにしておくと診療の助けになります。ガイドラインでは、便を持参する(便のついた紙おむつでもよい)ことや、携帯電話で便の写真を撮っておくと便利であることも紹介されています。
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登園の目安
こども家庭庁のガイドラインでは、ノロウイルス感染症・ロタウイルス感染症のいずれについても、罹患した場合の登園のめやすは「嘔吐、下痢等の症状が治まり、普段の食事がとれること」とされています。学校保健安全法施行規則で一律の出席停止期間が定められている病気ではありませんが、流行期には、前日に嘔吐していた子どもの登園は控えてもらうよう保護者に伝えることが重要である、とも書かれています。
登園再開の判断や、意見書・登園許可証が必要かどうかは園ごとのルールにもよります。園とかかりつけ医に確認してから復帰しましょう。
よくある質問
きょうだいへの感染を防ぐために、部屋は分けたほうがよいですか
吐物がついたカーペットやソファは、漂白剤で色が抜けそうで不安です
牡蠣などの二枚貝を食べていないのに、なぜうつるのですか
大人がかかったとき、子どもの世話はどうすればよいですか
アルコールのウェットティッシュしか手元にない場合はどうすればよいですか
まとめ|流行前の30分で、冬の負担を減らせる
感染性胃腸炎は避けきれないこともありますが、家庭内で何人が倒れるかは、最初の吐物処理でかなり変わります。流行期に入る前に、使い捨て手袋・マスク・ペーパータオル・ビニール袋・塩素系漂白剤・計量用のキャップをひとまとめにして、脱衣所など取り出しやすい場所に置いておきましょう。0.1%と0.02%の希釈メモを袋に貼っておくと、真夜中でも迷いません。
そして何より、吐いた直後にあわてて飲ませないこと、症状が治まってからも手洗いを続けることの2つを、家族で共有しておいてください。子どもの様子が普段と違う、水分が摂れない、といったときは、ためらわずかかりつけの小児科に相談しましょう。
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